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【短編小説】ある占い師の記録

占い道具と手帳
blackbox

街外れに建つ小さな占い館。古びたレンガの外壁は、時代の流れに取り残されたかのように薄汚れているが、その一方で妙に存在感があった。看板には「未来を知る場所」という文字が記されているが、ペンキが剥げ落ち、全てが読み取れるわけではない。その曖昧さがかえって訪問者の不安を煽るのかもしれない。

夜が更けたある晩、一人の女性が扉をノックした。

扉を開けると、30代半ばとおぼしき女性が立っていた。彼女は疲労と不安を隠せない表情を浮かべ、震える声で言葉を紡ぐ。
「予約していた野村です……どうしても相談したいことがあって……。」

室内に通された彼女は、その異様な雰囲気に一瞬圧倒された。狭い店内には、壁一面に絵画や古い布が飾られ、天井からは無数の水晶玉が吊るされていた。中央のテーブルには一際大きな水晶玉とタロットカードが置かれ、その配置はまるで儀式を思わせる。

「どうぞ、お掛けください。」
低く落ち着いた声が響いた。テーブルの向こう側には占い師が座っていた。黒いシャツをきっちりと着こなし、整った顔立ちには感情の色が薄い。その目は女性を静かに観察しているようでもあった。

女性は椅子に腰を下ろし、しばらく俯いたままだったが、やがて意を決したように口を開いた。
「夫が浮気をしているのではないかと思うんです……最近、帰りが遅くて、携帯を隠すようになって……。でも、それを問い詰めたら関係が壊れてしまうんじゃないかって。」

彼女の声には悲しみと不安が混じり、膝の上で組んだ手は小刻みに震えていた。

占い師は穏やかに頷き、静かにタロットカードを手に取った。
「心配しなくても大丈夫です。タロットカードは、あなたに選択肢を示してくれます。」

彼はゆっくりとカードを切り始めた。その動きは無駄がなく滑らかで、熟練の技術を感じさせる。カードを並べ終えた占い師は、慎重にそれを見つめた。

カードを並べ終えた占い師は一枚一枚を静かに見つめた。その顔に浮かぶ表情は読めないが、どこか慎重な雰囲気が漂っていた。

「これは……」
占い師は低い声で呟き、一枚のカードに触れた。それは中央に配置された「月」のカードだった。

「このカードは不安や迷いを象徴しています。夫の行動についての疑念は、間違いなく正当なものと言えるでしょう。」
女性の目が見開かれた。

「では……彼は、本当に……?」
彼女の声は震え、その先を言葉にできなかった。

占い師は答えず、別のカードに指を移した。それは剣を持つ騎士が描かれた「剣の騎士」のカードだった。
「彼の行動の背景には、隠された動機がある可能性があります。しかし、あなたが真実を追求することで、予期せぬ争いを生むかもしれません。」

女性は沈黙した。彼女の中で、不安がさらに膨らむのが見て取れた。

「それでは……私はどうすればいいんですか?」
彼女の声は細く、ほとんど聞き取れないほどだった。

占い師は最後にもう一枚のカードを指した。それは、手を伸ばして光を掴もうとする人影が描かれた「星」のカードだった。

「選択肢はあなた次第です。しかし、重要なのは、あなたがどんな未来を望むかです。相手を責めることで真実を手に入れるのか、それとも、不安を飲み込んで平穏を保つのか。」

女性はしばらく俯いていたが、やがて深く頷き、小さく感謝の言葉を述べた。

立ち上がりかけた彼女が、ふと振り返る。
「先生……どうしてそんなに正確にわかるんですか?」

占い師は微笑んだが、その表情はどこか薄気味悪いものだった。

「カードは、見たいものだけを教えてくれるんです。」

彼女はその答えに納得したような、していないような表情で小さく頭を下げ、占い館を後にした。

扉が閉まる音が響いたあと、占い師は手元のカードを一枚一枚片付け始めた。その手の動きは慎重で、かつ無感情なものだった。そして、カードを片付け終えた彼の視線は、机の隅に置かれたノートに移る。

そのノートには、彼女の名前と、彼女が話したすべての情報が記されていた――まるで、最初から全てを知っていたかのように。


翌日の昼下がり、占い館の扉が再び叩かれた。ドアの向こうに立っていたのは、スーツ姿の中年男性だった。身なりは整っているが、緊張した表情がその内面の不安を物語っている。

「先生、ご無沙汰しております。今日は少し込み入った相談がありまして……。」
男性は恐縮しながらも、どこか余裕を装った声で話した。

「どうぞ、お掛けください。」
占い師は椅子を指し示し、いつものように穏やかに促した。

男性はテーブルの向かいに腰を下ろし、ネクタイを緩めながら話を始めた。
「実は……今年、大きな投資を行いまして。その結果が気になって夜も眠れないんです。成功しているのか、それとも失敗しているのか。私には判断がつかなくて。」

占い師は頷き、タロットカードを取り出した。
「未来は必ずしも一つではありません。ただ、これまでの選択が何を導いているかを見ていきましょう。」

カードを切り、並べる動作は相変わらず滑らかで、男性はその所作に見入っていた。カードが並べられると、占い師はしばらくそれを見つめ、沈黙した。

「……なるほど。」
占い師が口を開くと、男性は息を呑んだ。

「あなたは先月、大きな資金を一つの案件に集中させましたね。それも非常にリスクの高いものに。」
その言葉に男性は驚き、椅子に背中を押し付けるようにして座り直した。

「どうしてそれが……」

占い師は静かに微笑み、指先でカードを示した。
「ここに現れています。これは“選択”のカード。あなたが複数の提案から一つを選び取ったことを示しています。そして、こちらの“剣の騎士”。リスクを伴う決断が、あなたの周囲に新たな敵を生む可能性を警告しています。」

男性は一瞬言葉を失い、その後、小声で呟いた。
「……もしかして、取引先のあいつか……いや、まさか。」

占い師は男性の動揺を観察しながら、冷静に言葉を続けた。
「あなたの判断は間違いではありません。ただ、近しい人間の中に、あなたを利用しようとしている者がいる可能性があります。」

その一言に男性の顔が青ざめる。握り締めた拳がテーブルの下で小刻みに震えているのがわかる。

しばらく黙り込んだ後、男性は椅子から立ち上がった。
「ありがとうございました……少し考えてみます。」

そう言い残して、男性は足早に店を出て行った。

その夜、占い師は一人店内でノートを広げていた。客の名前、相談内容、彼らの過去の行動――すべてが詳細に記録されている。そのページの一つに、先ほどの男性の情報がびっしりと書き込まれていた。

「取引先との金銭トラブル。社内の派閥争い。昨年の失敗した投資。」
それらは、まるで占い師が客の相談を予測していたかのような正確さだった。

占い師は水晶玉をちらりと見やりながら、ページの隅に新しいメモを書き加えた。
「来月、この男は裏切りを経験する。」

微かな笑みを浮かべながら、占い師はノートを閉じた。その表情には満足感が漂っていた。


翌日、占い館の扉が再び叩かれた。その音は弱々しく、訪問者の不安を反映しているかのようだった。占い師は椅子から立ち上がり、扉の方へ向かった。

扉を開けると、20代半ばと思われる女性が立っていた。握り締めたハンドバッグを胸元に抱え、どこか怯えたような目をしている。

「……こんにちは。お時間をいただいてすみません。」

彼女の声はか細く震えていた。占い師は穏やかな微笑みを浮かべ、室内へと案内する。
「どうぞ、お掛けください。」

彼女は椅子に腰を下ろすと、視線を落としたまましばらく沈黙していた。占い師は彼女の様子をじっと観察しながら、昨晩収集した情報を頭の中で整理していた。

彼女のSNSアカウントを探り、職業や普段の生活、投稿内容から性格や悩みを推測していた。写真には姉らしき女性と並ぶものが多く、その頻度が半年前から急激に減っていることにも気づいていた。最近は、姉についての発言や暗いトーンの投稿が目立つことから、「姉に何かあった」と考えるのが自然だった。

占い師は確信していたわけではない。だが、細かい行動や言葉の癖、投稿の内容から、この女性が「失踪」や「死別」に関連する問題を抱えている可能性が高いと判断していたのだ。

彼女がようやく顔を上げると、涙の滲んだ目が占い師を捉えた。
「姉が……行方不明になったんです。半年前に突然いなくなって……警察にも相談しましたが、進展がなくて……。」

彼女の声は次第に弱くなり、最後の言葉はほとんど聞き取れなかった。占い師は軽く眉をひそめ、優しく促すように問いかけた。
「大変でしたね。何か手がかりになるようなことはありましたか?」

彼女は少し首を振りながら答えた。
「姉は……職場で何か悩んでいるみたいでした。でも、詳しいことは話してくれなくて……。」

占い師は心の中でその答えに頷いた。事前に調べた情報が確信へと変わる。だが、それを表情には一切出さず、彼は小さく息をつきながらタロットカードに手を伸ばした。

「では、カードで見てみましょう。状況を整理するお手伝いができるかもしれません。」

彼の手は滑らかにカードを切り始めた。その動作は彼女の不安をさらに引き込み、占いの結果への期待を高めるためのものであった。

占い師は頷く素振りを見せながら、目の前にカードを並べ始める。
「失踪の件は、タロットがはっきりとした答えを示さない場合もあります。ただし、あなたが知りたいことに近づける可能性はあります。」

女性は一瞬躊躇したが、やがて覚悟を決めたように頷いた。
「お願いします……手がかりが欲しいんです。」

占い師は、女性の視線を感じていた。その切迫感と絶望が彼女の体から滲み出ている。カードを並べ終えると、占い師はそれをじっと見つめ、慎重に口を開いた。

「これは『隠者』のカードです。失踪した人が、自らを孤立させたことを意味しています。」

彼女は目を見開き、占い師の言葉に耳を傾けた。

「そして、こちらは『剣の三』――葛藤や裏切りを象徴します。お姉さまが信頼していた誰かとのトラブルが原因で、こうした事態になった可能性があります。」

女性は混乱した表情を浮かべ、椅子の背もたれに寄りかかった。
「そんな……どうしてそんなことに……。」

占い師は最後のカードに目を移した。それは『運命の輪』だった。
「このカードが示すのは、出来事が偶然ではなく、ある種の必然によるものだということです。つまり、お姉さまの失踪は単なる事故ではなく、計画されたものかもしれません。」

その言葉に女性は声を失った。目に涙が溢れそうになりながら、震える声で尋ねた。
「それじゃあ……姉は、もう……?」

占い師は少し間を置いて答えた。
「生存している可能性はあります。ただ、見つけ出そうとすることで、あなた自身が危険に晒されるかもしれません。」

彼女は一瞬目を見開いた後、立ち上がり、占い師に向き直った。

「お願いします。何か分かることがあれば、どうか教えてください!」

声は震えていたが、その目には切実な思いが込められていた。占い師はその視線を受け止めながら、ゆっくりと首を振った。

「すみません……私が読み取れるのは、ここまでです。」

その言葉に、彼女の肩が小さく震えた。何かを言おうと唇を動かしたが、言葉は出てこない。ただ、彼女の目には涙が滲んでいた。

「そう……ですか……。」

彼女はしばらく呆然と立ち尽くしていたが、やがて小さく頭を下げた。

「ありがとうございました……すみません、無理なお願いをして……。」

その声は掠れていて、最後の言葉はほとんど聞き取れないほどだった。

彼女は目元を手で覆いながら、足早に占い館を後にした。扉が閉まる音が静かに響いた後、占い師はテーブルの上に目を落とし、しばらく動かなかった。

女性が立ち去った後、占い師は机に置かれたノートを開き、メモを加えた。
「姉の失踪はおそらく、彼女の身近な人物による計画的なもの。真実を告げるのは時期尚早。」

彼の目に一瞬だけ憂いの色が浮かぶ。しかし、それが他人の不幸を悲しむものなのか、それとも別の感情によるものなのかはわからなかった。

「未来を知りたいと願う者ほど、その重さに耐えられないものだ。」

占い師は小さく呟くと、ペンを置き、再びノートを閉じた。


占い館の薄暗い室内には、深夜の静けさが重く漂っていた。わずかな風がカーテンを揺らし、蝋燭の炎が揺らめく。占い師は机に座り、目の前の男をじっと見つめていた。男の冷静な表情と鋭い視線は、普通の相談者とは明らかに異なっていた。

「あなた自身の未来を占ってほしい。」

男の低く落ち着いた声が室内に響いた。その言葉は、これまで数え切れないほどの相談を受けてきた占い師にとっても、初めての依頼だった。その場に張り詰める緊張感に、占い師は思わず息を呑んだ。

「……私自身の未来、ですか。」

声を発した自分に気づき、占い師は内心で驚いていた。これほど声が震えたのは、占い師としてのキャリアの中で一度もなかったからだ。

「占い師が自分の未来を占うことは……避けるべきだとされています。」

言葉を慎重に選びながら、占い師は男の様子を探った。しかし、男は微動だにせず、ただ占い師を見据えている。その目には確信が宿っていた。

「避けるべきかどうかではなく、占うべき時がある。それが今だと思いませんか?」

占い師は深く息をつき、目の前に置かれたタロットカードに手を伸ばした。しかし、その手がわずかに震えていることに気づき、指先を引っ込める。震えを抑えようと、再び深く息を吐き、少しだけ拳を握って力を入れる。

「私は……他人の未来を示すことで役割を果たしています。自分の未来を知ることが、果たして役立つのでしょうか。」

占い師の声には迷いがあった。それを感じ取ったのか、男はふっと笑みを浮かべた。

「役立つかどうかは関係ないでしょう。未来を知ることで、あなた自身が何を選ぶべきかを決める――それだけのことです。」

その言葉に占い師は心を突かれたような感覚を覚えた。自分がこれまで行ってきた占い――それは未来を示すだけではなく、客の選択を誘導し、結果を操作する行為だった。それが正しいことなのか、心の奥で答えを避け続けていたことに気づく。

やがて、占い師は再びカードに手を伸ばし、慎重にそれを切り始めた。その動作は普段通りの滑らかなものではなく、わずかなぎこちなさを伴っていた。

「……よろしいでしょう。占います。」

その言葉を発した瞬間、蝋燭の炎が大きく揺れたように感じられた。占い師は動揺を押し隠しながら、カードを机に並べ始めた。

一枚目のカードをめくると、それは「塔(逆位置)」だった。

占い師はカードをじっと見つめ、慎重に口を開いた。
「これは……崩壊を回避することを意味します。ただし、根本的な問題が解決されないまま、現状を維持することに伴う危険性も示唆しています。」

男はカードを見つめたまま、軽く頷いた。
「現状維持を選ぶことで、本当の問題から目を逸らしている、ということでしょうか?」

占い師はわずかに眉をひそめた。自分がこれまでしてきた行為――訪れる客の背景を徹底的に調べ、不安や恐怖を利用して選択を誘導し、運命を「作り替えて」きたことが頭をよぎる。彼が与えてきたのは未来の「提案」ではなく、巧妙に操作された「結果」だった。

次にめくられたのは「月(逆位置)」だった。

「……幻想が解消され、隠された真実が明らかになることを示しています。」

占い師の声は、明らかに震えていた。このカードが暗示しているのは、自分が避けてきたもの――過去の行いの結果が明るみに出ること――ではないのか?

男は静かに口を開いた。
「あなたの占いで導かれた人々が、その後どうなったかを知っていますか?」

占い師はその問いに答えられなかった。自分が作り出した未来の中で、多くの客が不安と恐怖に駆られた行動を取ってきた。破産、家庭崩壊、孤独――それは彼が「未来を語る」ことで作り上げた結果だった。

「幻想が消える時、何が残るのでしょうね。」
男の言葉は皮肉めいていたが、そこには確信があった。

最後のカードは「死神(逆位置)」だった。

その絵柄を見た瞬間、占い師の中に妙な安堵が広がった。このカードの逆位置は、終焉ではなく再生を意味する――だが、その再生は過去のすべてを捨て去る覚悟を伴うものだ。

「過去を手放し、新しい未来を迎える準備が整っていることを示しています。」

だがその言葉を口にする時、占い師の心には重い疑念が浮かんでいた。自分が本当に過去を捨て、再生の道を選べるのか? これまで築き上げた「占い師」という偽りの成功を手放すことができるのか?

男は微笑みを浮かべたまま占い師を見つめていた。

「カードは再生の道を示していますが、それを選ぶかどうかはあなた次第です。」

占い師は答えず、ただカードを見つめ続けた。

男は静かに椅子から立ち上がり、カードの並びを見下ろした。そして、視線を占い師に向けて口を開いた。

「未来は、人が持つ選択の中で形作られます。ですが、あなたの選択はこれまで、多くの人々を支配するためのものだったのではないですか?」

占い師はその言葉に何も返せなかった。それは事実だった。自分がやってきたことは、運命を読み解くのではなく、意図的に操作し、不安や恐怖を煽ることで客の行動を導くことだった。

「再生を選ぶなら、まず自分の行いを受け入れるべきです。」

その言葉を最後に、男は占い館を後にした。

男が去った後、占い師は机の上に残されたカードを見つめた。塔、月、死神――すべてが逆位置のままだ。

ふと、水晶玉が淡い光を放ち始めた。その中には、自分自身の姿が映っている。だが、それは冷たく笑う、別の「自分」だった。

「過去を手放し、再生の道を選ぶことができるか?」

その問いかけが心の中に響き渡り、占い師は目を閉じた。


夜が明け、占い館には一人きりの静寂が戻っていた。外から聞こえる鳥のさえずりや、通りを行き交う車の音が微かに聞こえるだけで、館の中には重苦しい空気が漂っている。

占い師は机に座り、目の前のタロットカードを見つめていた。カードは、塔、月、そして死神――すべて逆位置のまま、彼を問い詰めるように並んでいる。

昨夜、謎の男に促され、自らの未来を占った。カードが示したのは、再生の可能性。しかし、それを掴むには過去を手放さなければならないという暗示だった。それが具体的に何を意味するのか、彼にはまだ理解できない。

ふと、占い師の目が机の隅に置かれたノートに向けられる。それは彼がこれまで占った客たちの記録を詳細に書き留めたものだった。名前、住所、悩みの内容、さらには彼らが抱えている秘密までも――徹底的に調べ尽くし、それを利用して「未来」を語り、運命を「操作」してきた証拠だった。

ページをめくると、記録の断片が目に飛び込んでくる。

「家庭崩壊。選択を誤った結果。」
「投資の失敗。焦りから生じた判断ミス。」
「失踪者の不明確な未来。彼女を追わせることで生じた悲劇。」

すべては自分が「導いた」未来。だが、それが正しかったかどうか、誰が判断できるのだろうか。

占い師は視線を水晶玉に移した。静かに光を放つその中に、自分自身の姿が浮かび上がる。だが、それは普段の自分とはどこか違っていた。

水晶玉に映る「もう一人の自分」は冷たい微笑みを浮かべ、何かを告げるように口を動かしている。だが、言葉は聞こえない。ただ、その目だけが語りかけてくる。

「未来はお前自身の選択で形作られる。だが、選ばなければならないのは、過去を手放す覚悟だ。」

その声が心の中に響き渡る。

占い師は目をそらし、カードに手を伸ばした。塔、月、死神――再びそれらをじっと見つめる。

「再生の可能性……か。」

その言葉を呟くと同時に、彼の手はノートを閉じた。そしてそれを机の引き出しにしまい込む。

占い師は立ち上がり、扉へと向かう。鍵を握り締める手がわずかに震えているのを感じながらも、彼は静かに扉を開いた。

朝の光が差し込む中、彼は一歩外へ踏み出す。その背中にはこれまでとは違う重みがあった。

だが、その未来がどのようなものであるかは、誰にもわからない。彼が再生の道を選ぶのか、それとも再び運命を操作する側に戻るのか――それは、彼の次の行動に委ねられている。

扉が閉まり、占い館は再び静かに息を潜めた。

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